葬儀の準備として重要なことのひとつに、遺影の準備があげられます。昔は、遺影というと正装の無表情のものが主流でしたが、最近では故人らしい自然な表情のものを選ぶ遺族が多いようです。ただ年齢を重ねていると、どうしても写真というのは選択肢が豊富ではありません。
また、危篤であったり、亡くなった直後などに故人の元気な頃の姿を見るのはつらいことでもあります。しかし遺影を選ぶことは、悲しみを癒していく作業のひとつでもあります。時間をかけて、故人の生前の姿を見ながら、故人を偲び、故人の話をするという時間は、家族にとってもかけがえのない作業となり得ます。
また遺影を1枚に絞り切れなければ、葬儀の際にメモリアルコーナーなどを設けて飾っても良いでしょう。遺影は、故人を偲ぶきっかけとして、葬儀の後も飾っておくことになるものなので、故人の生前の姿や、雰囲気、声などを想起できるものが良いようです。
当たり前のことですが、旅立ちを受け入れるのは故人自身ではなく、残される側です。しかし、この当たり前のことが故人が元気な間にはわからない場合も多いようです。葬儀は、故人を送り出すための儀式ですが、それは何よりも残された者のためにあるといえます。
お葬式の際、故人にかかわる人は皆悲しみの中にありますが、その感じ方や捉え方が異なるために、しばしば衝突してしまうこともあるようです。けれどもこれは、皆が故人のことを考え、悲しんでいるからこそ生じてくることです。
皆が混乱や悲しみの中にあるということは、念頭においておいたほうが良いでしょう。ひとりの人の人生の最後であるために、悔いのないお別れを希望しているからこそ、小さなことでも過敏に反応してしまうのかもしれません。
別れがやってくるということは、その後悲しみと向き合わなくてはならないということを、家族や友人が元気で一緒にいられる間に理解しておく必要があるでしょう。
人はいつか必ず亡くなるということは、頭ではわかっていてもそれを理解するのは容易なことではありません。そのため家族が亡くなったと告げられた際、人はしばしば混乱に陥ります。そのため葬儀という儀式を行い、故人との別れを認識します。
またこの儀式によって、遺族は故人との関係性や故人との記憶に新たな見地かた触れることになります。そして様々な儀礼を行っていくことで、遺族はゆっくりと故人との別れを現実のものだと理解できるようになります。葬儀は、遺族にとってつらい場でしかありません。
しかし、葬儀というひとつの義務を果たすことで、故人と別れた後にも残る家族としての認識を新たにしていくのでしょう。遺族になるということは、ただ故人がいなくなるということだけではなく、今までの日常が失われるということでもあります。
遺族は儀式が終わった後から、故人の記憶とともに新しい日常を構築していかなくてはなりません。